宝塚を観てきた

縁遠い、敷居が高いと思っていた宝塚歌劇に、機会があって行ってきた。舞台や演劇は普段全く観ず、宝塚に関する知識もほぼない状態で、加えてあえて下調べもせずに。で、色々思ったので忘れないうちに書き留めておこうと思う。観劇のことも宝塚のことも全然知らないシロートの感想ではあるけれど。
演目は『ベルリン、わが愛』『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』で星組公演。午後の部で席は一階の前の方。

 

宝塚への憧れはなかったしハマる予感はしないままだが、それでも非常に面白く、素直に楽しめた。宝塚というと一人一人の演者(スターと言うんでしょうか、用語はよく分からない)に対するファンが多いという印象を私は持っていて、そういう楽しみ方が王道なのかな(本音を言えば、そういう目で見られなければ仲間に入れない雰囲気なのかな)と思っていたんだけども、舞台全体を通して一つの美しいエンターテイメントとして完成されていて、全く無用の心配だった。

 

長く愛され続けるものには、それだけの芯がある。重みがあって強い吸引力がある。実際に行ってみてひしひしとそう感じた。

 

DVDで観るのでは、多分私はさほど良いとは思わなかったと思う。考えてみれば当たり前だが、画面は平面だが実際の舞台は3Dなのだ。迫力が違う。すぐそこで立体が動いていて気配やかすかな振動が伝わってきて、耳には大ボリュームの歌やセリフや音楽が響く。会場は(今回行ったのは宝塚大劇場の方)広く暗くて没入感が凄い。
この没入感というのがポイントで、家でDVDを借りるなりなんなりしていたら、女性が男を演じることとメイクが強烈なことが私にとってのネックになったと思う。どちらも『突っ込めてしまう』ところで、そこ起点で我に返ってしまったのではないかと。しかし劇場のあの、スッと一種異様な空気を受け入れられる雰囲気がそのネックを潰した。感覚としては物陰からそっと見ている感じというか、観ている私は存在が薄れていって、ずずっと物語世界に沈んでいけるのだ。

 

突っ込めてしまう、というのは、ファンにとっては失礼な話かもしれない。でも私はそう思った。劇場来て観るので良かった、心置きなくどっぷりいけたと安心したのだ。今回の観劇後ならDVDをかなり楽しめるとも思う。ライブでもスポーツでもそうだけど、見に行った現場では見えないところがDVDではがっちりきれいな画でカバーされているのが楽しい。

 

ミュージカルは(宝塚が常にミュージカル仕立てなのかすら知らないが、今回はミュージカルでした)あらすじにもあるようにナチスの陰が忍び寄るベルリンが舞台。そこで映画作りに情熱を燃やす若者たちと恋と…という感じで、歌も踊りもたくさん、舞台装置もたくさん。

正直に言えば主役を務める方による開演のアナウンスが流れた時、うわ、この発声すごい違和感あるな。男役って全部こうだよな、面白く観られるかな…と不安になった。始まって少しの間は違和感は残っていたが、序盤で気にならなくなって(ソロの歌声がものすごい重量で納得させられた)、途中からは男性だと自然に受け入れることができた。かっこいいとさえ思った。

これはこちらが飲み込み方を覚えたというのが一つ、それともう一つは演者の方々が『きちんと男性っぽかった』からだと思う。仕草や喋り方で男であることをしっかり主張していて、女性が演じていることを忘れるのだ。
だから、宝塚は『見立て』ができなければ楽しめないだろうと観ていて感じた。無垢で物語の中に完全に入り込むような純真さか、約束事を約束事として愉しめる大人の成熟が必要とされると。

 

宝塚はド級のシリアスしかやらないと昔は思っていたが、どうも違うようで(ルパン三世のポスターを見かけた時に、おや?宝塚って面白い感じのもやるの?と衝撃を受けた)今回も明るい笑いどころが結構あった。

すてきだ、と思うのが、笑いどころも愛嬌があってさりげないところ。ドッと沸かせるのではなくて笑いのさざ波を起こす程度で、丸みがあった。これは宝塚に限らず舞台全般がそうだろうと思うのだけれど、強調される喋り方や動作もあたりがきつくないと感じた。すべて女性だからだろうか?

そういえば、なんか不思議な感じがする…と観ながらその原因を考えたら、男性がいるのに聞こえてくる合唱が女性の声で柔らかく澄んでいるからだった。目と耳から違うものを受け取っている混乱が少しだけあって、幻惑されているように思えた。

 

男性がいる。
厳密に言えば架空の男性が今ここに存在している、と私は思った。伝わりにくいかもしれないが、自分の感情を探ったらそういう結論になった。男性のイメージエッセンスを抽出して男役に混ぜて美しい存在になったモノ、本物の男じゃないのは分かってる、だけどあそこには男性がいるぞと感じる…という感じ。とても不思議だった。

ナチスの軍人なども出てくるのだが、いやそのきっぱりと差別化された男性っぽさはすごかった。なのに恐くはないというのもいいのかもしれない(私は男性が怒鳴ったりするのがとても苦手、演技であっても。だから余計そう思う)。

 

眠くなってきたのであと箇条書きで。

・生演奏だとは知らなかった。演奏は私の席からは見えない、奈落的に下の方でされていた。贅沢だ。
・スワロ、スパンコール、ラメ、グリッター…きらきらが目にとても美しい。ミラーボールもものすごくきれいだった。
・レビューのラインダンス半端ない。
・主役を引き立てるためにモブが静止するシーンの静止画感が凄い。気づいたらそちらに見入ってしまった。
・一人一人の見分けがつかない。が、今の人の動ききれいだなとか今の人かっこいいなというのは瞬間的にだいぶ思う。
・滑舌って大事
・劇場内に軽食、和食、洋食、ソフトクリーム(ジェラートだったかも)などわりと多い。飲料の自販機もあった気がする。
・グッズショップ多!
・宝塚を好きな人が好きそうなもの、も売られている。猫モチーフとか花柄とか。
・劇場内に郵便局…?!
・女子トイレが凄まじい。個室数がサービスエリアなんか目じゃない上に一方通行で、入り口と出口が決められていて、さらに化粧直しエリアががっつり完備な上にほんのりロココ感。大ファンの方の前では一番きれいでいたいファン心への理解よ。
・男性客が予想していたよりずっと多かった。ほとんどいないぐらいかと思っていたら、15%ぐらいは男性だった印象。奥様の付き添いという年齢ではない若い人もちらほら。
・全体的にうるっさい人がいない、騒ぐ子供もいなかった。
・服装はややおでかけ寄りのカジュアル。膝丈フレアスカート率が高い。ラフな服の人は、季節のせいもあってか見なかったように思う。着物の人も見かけた。

 

また行きたい。